ARTICLE
ゼロ・ウェイストに取り組む徳島県・上勝町でこれからの暮らしを考える vol.1 HOTEL WHYで働く1997年生まれの2人のサムネイル

ゼロ・ウェイストに取り組む徳島県・上勝町でこれからの暮らしを考える vol.1 HOTEL WHYで働く1997年生まれの2人

ごみのない社会を目指す徳島県・上勝町で生きる次世代たちから学ぶ、私たちがサステナブルな生活のためにできること。

About the author

CHOOSEBASE編集部
CHOOSEBASE編集部
CHOOSEBASEに関わる、ヒト・モノ・コトをクリエーターの皆さんといっしょにお送りするオリジナルコンテンツです。 写真、インタビュー、コラム、エッセイ、小説など、多彩な記事で、皆さんの日常の選択を豊かにできたらと思っています。
ゼロ・ウェイストに取り組む徳島県・上勝町でこれからの暮らしを考える vol.1 HOTEL WHYで働く1997年生まれの2人のサムネイル

地球環境はもう後戻りできないところまできていると聞きますが、私たちは日々の生活で何を考えて、暮らせばいいのでしょうか。そのヒントを得るため、ごみのない社会(ゼロ・ウェイスト)を目指すことで知られる徳島県・上勝町を訪れました。

上勝町は町全体で「ゼロ・ウェイスト」を目指した取り組みをしているだけでなく、高齢化が進み町の存続自体が危ぶまれる中で若者の移住も増え始めているといいます。上勝町で生きる次の世代の方々は地球や町の“TIMELIMIT”にどう向き合っているのか。現地で出会った次世代たちを連載形式でご紹介します。

***

2020年5月のオープン以降、上勝町の新しいランドマークとなっているゼロ・ウェイストセンター”WHY”。2003年に自治体としてはじめて焼却・埋め立てごみをゼロにする「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った上勝町が、リサイクル率100%の実現と私たちの暮らしを再考するための交流の場を目指し、旧ゴミステーションをリニューアルして生まれた複合施設です。

館内には、上勝町唯一のゴミの回収分別所、コミュニティホール、企業・研究機関向けのラボラトリー、体験型宿泊施設ゼロ・ウェイストアクションホテル「HOTEL WHY」が併設。まだ使えるものを無料で持ち込み、持ち帰ることのできる「くるくるショップ」などの取り組みも始まり、町民の交流に加えて町外から訪れた人たちがゼロ・ウェイストの理念を学び、世界に広げていける施設を目指しています。

本連載で、まず初めにご紹介するのはこの上勝町ゼロ・ウェイストセンターで働く二人。Chief Environmental Officerの大塚桃奈さんと、Operation Memberの那須楓さん。二人は同じ年で、1997年生まれの24歳。

海外で生活をした経験があるという共通点を持つ二人が上勝町に移住した経緯、ゼロ・ウェイストへの取り組みを含めた上勝町での活動、そして地球や町の“TIMELIMIT”への向き合い方についてお話をうかがいました。

-お二人が上勝町に移住してゼロ・ウェイストセンターで働くことになった経緯を教えてください。

大塚:上勝町に訪れたのは、ご縁とタイミングが重なったからでした。ゼロ・ウェイストセンター(以下、WHY)の設計に携わっていた建築家の中村拓志さんをきっかけに在学中に上勝町のことを知り、初めて町を訪れたのは大学2年生の冬休みでした。その時は町に移住することも、働くことも考えてなかったのですが、私が卒業するタイミングでWHYがオープンするということでプロジェクトメンバーからお声がけいただきました。学生時代から関心を抱いていた衣服を取り巻く環境や社会の課題と向き合うヒントが「ゼロ・ウェイスト」という考え方にあるということと、暮らしや仕事を地域に住まう人やそこに訪れた人とともに寄り添いながら育むことに魅力を感じ、飛び込んでみたいと思いました。

HOTEL WHYの宿泊者は上勝町のゼロ・ウェイストの取り組みを聞くことができる

那須:私は高校をニュージーランドで、大学をアメリカで過ごしました。長い海外生活の中で、環境に対して自然に考えるようになったと思います。大塚は洋服でしたが、私の場合は食をきっかけに環境について考えるようになったんです。

例えば、ニュージーランドでは、家庭菜園をしている家が多く、自分の庭で摘んできたものがそのまま食卓に並ぶという経験をしました。羊や牛等動物に囲まれて生活していることもあって、命との繋がりを強く感じる環境でした。スーパーの仕組みなども日本と違うところがあって、容器包装がされていなかったり、量り売りがあったりして、必要なものを必要な分だけ購入するという習慣が身に着いていました。

日本に帰って姫路の実家で過ごしていると、食べ物やゴミ等のロスの問題が気になって、ストレスを感じる場面がありました。だけど、上勝町の生活は海外の時に似ていて、自分にとってはすごく心地良かった。私がはじめて上勝町に来たきかっけは2020年11月にHOTEL WHYに泊まりに来たことでした。ちょうど新型コロナの影響でアメリカがロックダウンされてしまって、日本に帰って来ていたタイミングで、進路について悩んでいた時期でした。

オンラインで海外に大学に籍を置き続ける意味を見いだせなくて、大学を辞めるなら何か自分が本当にやりたいと思える仕事がしたい、それが何なのかじっくり考えたいと思っていました。そんな時に大塚と出会って、同じ年だということもあって仲良くなり、色々話を聞いているうちに、ここなら自分がこれまでやりたいと思っていた食を通じて環境問題について考えるということに挑戦できるかもしれないと可能性を感じて移住することに決めました。

 

小学生のアイディアから生まれたくるくるショップ 町の人たちが再利用可能なものを持ち寄って、誰でも必要なものを持って帰ることができる

-上勝町のゼロ・ウェイストの取り組みは全国的に注目を集めていますが、実際に町に住み、ゼロ・ウェイストセンターで働く中で感じていることを教えてください。

那須:人口1500人のこの町には焼却炉やゴミ収集車がありません。町民の方々は自らゴミをゴミステーションに運んで、45分別して回収することでゴミの資源化に取り組んでいます。そう説明するとはじめて聞いた人からは「大変そうですね」と言われます。実際に分別は大変なのですが、私は、むしろ日本の実家で暮らしていた時と比べてストレスがなくなったと感じていました。

例えば、ここではプラスチックの容器などは洗って乾かしてから捨てます。それは確かに手間がかかるんですけど、逆にどうやったら捨てるものを減らせるかと考えるようになります。同じ製品の中でもプラスチックがあまり使われていないものや、洗いやすいものなど、製品の選び方が変わってくる。そんな些細な変化でも自分の生活が少し豊かになったと感じます。

大塚:「ゼロ・ウェイスト」は暮らしのあらゆる選択肢に透明性をもたらしてくれるものだと思います。上勝町の取り組みはまだ発展途上ですが、どうすれば地球の環境に思いを馳せながら、自分たちが心地良く暮らしていけるかをこの町で一緒に考える場をつくっていきたいです。この1年間、たくさんの取材を受ける中で、SDGsやサステナブルという考えが世の中に浸透して、社会の問題が見えやすくなった一方、そのイメージが一人歩きしていることに違和感がありました。今まで見えていなかった社会の問題が見えてきた後に、一人ひとりがどう関わっていくかを考える機会として上勝町に来てもらえたらいいなと考えています。

那須:このホテルには「WHY」という名前が付いているのですが、普段生活していて、身のまわりのことについて「なぜ?」と見つめ直す時間を提供することでイノベーションが生まれたらうれしいです私たちのホテルではご宿泊いただいたお客さまに、上勝町民と同様に45分別体験にご参加いただいています。ただし絶対に帰ってからも上勝町と同じ様にゴミを細かく分別して捨ててもらいたいとは思っていません。ここに来てくれた人たちがそれまで当たり前だと考えていたことについて「これってどうしてこうなっているのだろう?」と考えて、変わっていくきっかけをつくっていけたらと考えています。

コミュニティーホールの中に設置されたブロックは花王との共同プロジェクトで回収した洗剤やシャンプーの詰め替え用容器を元につくられたもの。全国の様々な企業や大学との共同プロジェクトの拠点にもなっている。

印象的な不ぞろいの窓は町内で取り壊される予定の家から集められたもの

 

-この町でのお二人の今後の取り組みについて教えてください。

那須:私と大塚ともう一人の移住者の三人で古民家を再生するプロジェクトに取り組んでいます。上勝町には、空き家がたくさんあるのですが、住み続けられる環境が少ないです。家は放っておくとどんどん状態が悪くなってしまうのですが、人が手をかけてあげれば100年、200年とずっと住めるものもあります。生涯一つの場所に定住するというライフスタイル自体が見直されている時代の中で、家も一つの家族が住んで終わりではなく、人から人へと渡っていくような可能性があると思います。私たちがこの町を出ることになったとしても誰かの手によって続いていくような家をつくれたらいいなと考えています。

大塚:この町には、ホテルや温泉宿、グランピング施設などがあるのですが、それだけだとどうしても短期的な関わりになってしまいます。ホテルやゼロ・ウェイストセンターに大勢が集まって活動をする「ハレの場」に対して、もうちょっとクローズドに料理を持ち寄って気軽に話せるような「ケの場」があるといいなと思っています。

このプロジェクトは私たち個人の取り組みなのですが、人口1500人の上勝町で暮らしていると、プライベートとパブリック、生活と仕事の境界が曖昧で、繋がっていると感じます。都会で暮らしていた時は、それぞれのコミュニティーの中の私という感覚だったのですが、上勝町に来てからは、一個人の私としてここにいると感じます。みんながお互いに生活の中で支え合っているので、何か挑戦したいことがあったら「一緒にやろうよ」って言ってくれる仲間がいるのはありがたいですね。まだまだ、私たちだけじゃできないこともたくさんあるので、周りにいる人を一緒に巻き込みながら楽しい関わりを上勝町に増やしていきたいです。

那須:古民家の再生プロジェクトを通して、私たちが「こういう家の使い方もあるんだ」という新しい事例を提示していけたらと考えています。町に暮らす人々の高齢化が進み、人口が減っていく中で、この街に住んでみたいと興味を持ってくれる人がいても、住める場所がないという課題があるので、その解決にも貢献していけるといいなと思います。

マウンテンビューの部屋からは渓谷の奥に広がる山々を見渡すことができる

 

-「CHOOSEBASE SHIBUYA」の今期のテーマが“TIMELIMIT”なのですが、地球環境を守ることの取り組みについて改めておニ人の考えを教えてください。

那須:自分ごととして楽しんで取り組むことが持続に繋がるのではないかと思います。無理があったら続かないと思うので、ルールに捉われて自分を苦しめるのではなくて、その中で自分がどう向き合っていくのかを考えることが大切だと思います。社会の課題に対してまずは理解して、向き合い方についてはそれぞれが考えたらいいと思います。自分の中で落とし込むことができていたら、無理せず豊かに暮らしていけるのではないでしょうか。

大塚:地球のためだとか、町のためだとか、「誰かのため」を意識し過ぎると苦しくなっちゃいますよね。どこかで自分を犠牲にしないといけなくなる。でも、それだと長く続けることは難しいと思うので、まずは色々な事例を知った上で、自分にとって本当に心地良い暮らしについて考えてみるのがいいんだと思います。自分が幸せになった上で、その豊かな暮らしがまわりに伝播していったらいいなと思います。

 

Text&Photo:
Yuki Kanaitsuka
Edit:
Takahiro Sumita

\CHOOSEBASE編集部 recommends!/

〇ゼロ・ウェイストに取り組む徳島県・上勝町でこれからの暮らしを考える vol.2 20代の移住者5名のリアルな声

〇ゼロ・ウェイストに取り組む徳島県・上勝町でこれからの暮らしを考える vol.3 多彩な領域で上勝町内外をつなぐ次世代の5人

About the author

CHOOSEBASE編集部
CHOOSEBASE編集部
CHOOSEBASEに関わる、ヒト・モノ・コトをクリエーターの皆さんといっしょにお送りするオリジナルコンテンツです。 写真、インタビュー、コラム、エッセイ、小説など、多彩な記事で、皆さんの日常の選択を豊かにできたらと思っています。