[歌人・伊藤紺さんに聞く]言葉を贈る、ギフトに添える手紙の書き方と言葉の選び方
3月にスタートした新たな編集テーマ「gift your color/何色にしよう」。5月は「つながりを祝う」をキーワードに、家族やパートナー、大切な仲間へのギフトを考えたいと思います。今回は「言葉」をテーマに、歌人でコピーライターの伊藤紺さんに「言葉を贈る」についてお話を伺いました。
ーー伊藤さんの普段の活動について、教えてください。
伊藤:今は、歌人・コピーライターとして活動しています。もともとライターをしていたのですが、だんだん短歌やエッセイ、コピーなどのお仕事もいただくようになりました。でも、まだ肩書きは自分でもはっきりしていません。言葉にまつわるお仕事はなんでもやるという感じです(笑)。ただ、書くとすれば短い言葉が多いですね。
ーー短歌にはどんなきっかけで興味を持ったのでしょうか。
伊藤:大学4年生の年末に、突然、教科書か何かで読んだのを思い出して俵万智さんってすごいと思ったんです。それで、その日の帰りに古本屋さんに行って、歌集を数冊買いました。その時に買った佐藤真由美さんの「プライベート」という歌集に「今すぐにキャラメルコーン買ってきてそうじゃなければ妻と別れて」という歌があったんです。こんなにも短い歌の中で、どんでん返しが起こるというか、キャラメルコーンの重みが変わっていく感覚にすごくびっくりして、私もやってみたいと思いました。それから数日後には自分でも短歌を詠み始めました。
ーー話すことと、書くことだと使う言葉も違うんでしょうか?
伊藤:私は喋るのが苦手なんです。飲み会とかでも、スピード感のある会話にはついていけなくて。思うことはあっても、喋らないから考えがない人だと思われちゃうのは嫌だったんです。そんな自分だから、短歌に夢中になった気もします。短歌は31文字に何時間でも、何日でもかけていい。自分がどう考えているのか、短歌を作る過程で自分と向き合えるんです。
ーーギフトという観点でもお話を聞かせてください。誰かに気持ちを込めて言葉を贈ることはありますか?
伊藤:あります。たくさんではないけれど手紙を贈ったりもします。難しいんですよね。普段、言葉を書いているから、どこかカッコつけちゃう自分がいたりして。でも、手紙ってカッコつけたものよりもその人らしさが出ているものの方がいいんじゃないかなと思っています。人からお手紙をいただくときも、取り繕っていない、そのままの言葉で書いてくれたものの方が印象に残っています。カッコよくて、丁寧な手紙よりも、さりげない手紙の方が覚えていたりしますよね。
実は以前は心配性で、一度Wordで打ち込んで文章を完成させてから手書きをして、さらに清書をするというやり方をしていました(笑)。でも、やっぱり完成され過ぎた文章だとあまり良くない気がしてきて、一発勝負で書くようになりました。字を書くのも苦手なのですが、手紙を書くときは絶対に手書きにしています。どんなに下手でも受け取り手の人は「こんな字を書くんだ」と思える方が面白いだろうし。
ーーおっしゃる通り、手紙を書くのは難しいなと思うのですが、コツがあれば教えてください。
伊藤:手紙は書き出しが難しいですよね。難しいからこそ、私は本題から書き始めるようにしています。「久しぶり」などの挨拶は飛ばしちゃって、最初から相手に伝えたいことを書くんです。10%くらいのエネルギーで始まってだんだん盛り上がるよりも、短くてもいいから最初から100%で始まる手紙の方が嬉しいかなと思うんです。メールじゃなかなかできない、手紙ならではの作り方じゃないかなと。
ーー手紙以外でも、誰かに贈る言葉の選び方で意識していることはありますか。
伊藤:「社会語」のような言葉を使わないことです。社会のスピードに合わせて話す時にパッと出てくる言葉ってあるじゃないですか。それを「社会語」と呼んでいるんですけど、「優しい」とか「かわいい」とか「かっこいい」みたいな分かりやすくて使いやすい言葉って自分の本心と少しずれている時があると思うんです。
短歌を書き始めた人の短歌を見させてもらう機会がたまにあるのですが、そういう時に出てくる耳触りのいい表現を見て「本当にこう思いました?」と聞くと、案外違う答えを持っていたりするんです。早く伝達することが基本とされている社会だから、普段使う言葉や使いやすい言葉を選びがちだと思うんですけど、本当はみんなもっと言葉を持っていると思います。だからこそ手を抜かずに、一歩踏み込んで言葉を選ぶと相手に届くんじゃないかなと思います。
ーー最後に、伊藤さんにとっての言葉の魅力を教えてください。
伊藤:ずっと持ち運べるのが言葉のすごいところだと思っています。写真や絵は実物があって、それを見たりして味わうものだけれど、言葉はずっと頭の中で生き続けてくれる。ずっと一緒にいてくれて、思い出したり、自分で口に出して再現することもできる。私も好きな言葉はずっと覚えていたり、誰かが言ってくれて嬉しかったことはもう一度口に出して言ってみたりします。それが言葉のいいところだと思います。
- Text:
- Natsu Shirotori
- Photo:
- Eichi Tano
- Design:
- Ayane Sakamoto
- Edit:
- Takahiro Sumita