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日本にはなぜサステナビリティが必要なのか、食産業のイノベーションに挑むカフェ・カンパニーの楠本社長が語るのサムネイル

日本にはなぜサステナビリティが必要なのか、食産業のイノベーションに挑むカフェ・カンパニーの楠本社長が語る

日本にはなぜサステナビリティが必要なのか、私たちの食の未来はどうなってゆくのか。WIRED CAFEなどで知られ、「食で未来をつくる」をビジョンに掲げるカフェ・カンパニーの楠本社長に伺います。

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日本にはなぜサステナビリティが必要なのか、食産業のイノベーションに挑むカフェ・カンパニーの楠本社長が語るのサムネイル

食品ロスをはじめ国内でも注目の集まる食分野。私たちの生活と密接に結びつく食という分野におけるサステナビリティは今どんな状況なのか。これからの日本の未来はどうあるべきなのか。

食分野におけるサステナビリティの可能性についても触れた著書「おいしい経済 〜 世界の転換期 2050年への新・日本型ビジョン 〜」を​​上梓したばかりで、WIRED CAFEなどを運営するカフェ・カンパニーの楠本社長に、NTTドコモとカフェ・カンパニーがタッグを組んで始動させた「食のコミュニティ型EC『GOOD EAT CLUB』」のオフラインの場として今年11月にオープンした「GOOD EAT VILLAGE」で語ってもらいました。

 

独特な「リズム」に基づき、持続可能な生活を営んでいた日本

楠本:僕たちが暮らしている現代よりずっと前、日本はもともと独特の「リズム」に基づいて、サステナブルな社会をつくってきた貴重な国だったんです。たとえば1300年の歴史をもつ伊勢神宮の「式年遷宮」。20年に一度、社殿と神宝を新調するお祭りです。

その際、造り替えに使うヒノキが約一万本くらい必要になるのですが、この20年という期間はヒノキの木が再生し、そして宮大工の技が継承されるのに必要な時間であるという見方があります。国土と技術が一定期間のサイクルを得て持続していく「リズム」が存在していたんです。

加えて、日本にはかつて「藩」の制度がありましたよね。時期にもよりますが、国全体が260〜300の地域に分かれて、文化圏を形成していました。藩とは、各地の風土に根付いた地産地消が行われるコミュニティのこと。それぞれがその地域性を反映した「リズム」に基づきながら、持続可能な生活を送っていたんです。つまり日本では昔から、サステナブルな取り組みを、あたりまえにやっていたことになります。

経済成長にともなう文化の衰退と、その後

楠本:そのあと廃藩置県が行われ、人々の生活に根付いたそれぞれの文化圏でもあるコミュニティは希薄になっていきました。明治・大正・昭和と時代が変わっていく中で「国力を付け、生活をより豊かにすること」が優先事項となり、日本は古来から培ってきた「リズム」よりも、欧米的な経済成長を辿る道を選んだとも言えるかもしれません。

20世紀を支えたのは衣食住の大量生産・大量消費でした。食産業も然りです。その時代にはそれが必要だったから。でも、前述した「藩=コミュニティ」の話にもありますが、「おいしい」はそれぞれの地域の風土や水、風、それに寄り添う人々の暮らしによって違っているから、その地域の特性を生かした「おいしい」を中央集権的に大量生産することは難しいんです。例えば、地方の山深い農村に住んでいるおばあちゃんの味を産業的にそのまま再現することが難しいのは、「塩大さじ1、醤油小さじ1」みたいな画一的な基準では表現できないからなんですよね。だから、今までは「リズム」よりも「経済成長」だけを優先してきてしまったのかもしれません。

しかし、21世紀になり、産業のあり方も大きく変わろうとしています2015年に採択されたSDGsという行動指針によって、地球の変化に対して今行動を起こさなければとんでもないことになってしまうからと、世界中が行動を加速させました。そこに新型コロナウイルスが発生し、さらに自分ごととして未来の危機に事前に対処していかなければいけないと痛感することになりました。

 

世界と未来へ向けて、日本の「おいしい社会」を発信するべき

楠本:冒頭でも言った通り、日本はもともとサステナブルな社会を維持してきた国です。欧米のように、正しいと判断した瞬間にこれまでとは正反対の行動でも一気に突き進めるような極端な施策ではなく、人の力と自然の力をバランスよく使ったサステナブルな「リズム」が生活様式が土台にある社会です。

今こそ、その「リズム」を世界にお裾分けしていくことができると思います。おばあちゃんのぬか漬けや郷土料理のような「おいしい社会」を作ってきた文脈をブランドとして発信していくことで、日本ならではのサステナブルな食文化を提案することができると信じています。

だけど、その際に問題になるのが、地域の弱体化です。少子高齢化により生産者の高齢化が進み、後継者が減っています。加えて、20世紀の日本を支えてきた大量生産のための効率的な中央集権型の仕組みもあり、生産の現場と加工工場、物流、外食、小売などそれぞれのプレイヤーが一本足打法にならざるを得なくなってしまっている状態でもあります。そのような理由から、今の日本は、どうしても、地域としてのブランドが育ちづらい状況にあるのではないか、とも考えています。

業界を超え、誰もが消費者から生活者へ

楠本:じゃあ、どうすれば地域ブランドが育まれるのか。僕は、生産者と食品加工業者、そして食産業の間にできてしまった分断をつなぎ、再編成していくことで日本の食の未来がより豊かなものになっていくのではないか、と考えています。そのためには食分野以外の外部の力を巻き込むことも重要です。

たとえば「ベックスバーガー」というハンバーガー屋さんは、自動調理でオペレーションの効率化を図り、本格的でおいしいハンバーガーを比較的安価な値段で提供して人気を集めています。このテクノロジーを提供しているのは、もともと自動車の下請けだった会社なんです。そんなふうに業界を超えたテクノロジーの掛け合わせによって、日本らしいブランドを維持し、成長させていくことができると思うんです。

加えて、最近はライフスタイルも多様になり、二拠点生活をする人も増えてきました。地方に住むことで、食産業に関わる方も増えてくると思います。たとえば東京のライターさんが、地方の農家さんについて記事を書きながら発信する、とかね。実際に自分が関わることによって「消費者から生活者」へと向き合い方も変わる。

こうやっていろいろな産業・人同士がつながり、食の関係人口が増えることで、これからの日本の「おいしい」を育んでいくことができるんだと思います。

 

「おいしい」が課題解決につながる社会へ

楠本:つまり食産業全体におけるイノベーションが必要だと思うんです。ライバルも、違う業界の方々もみんな一緒に、同時多発的にやっていかなければ間に合いません。その成功例のひとつが、スペインのサン・セバスチャンです。街には「美食倶楽部」という料理を作って食べる歴史ある集会があって、そのメンバーは一般市民からミシュランシェフまでさまざまです。

驚くべきそのルールは、お互いのレシピや技術をつねに共有し、共に研究に励むこと。成功体験を惜しまずシェアしながら、混ざりあうことで街全体の食のレベルが底上げされたんです。今では美食の街として世界的にとりあげられ、観光業、そして第一次産業で栄えるようになりました。

おいしいものを食べるために人々が集まり、それが問題解決につながっていくのはすごく理想的ですよね。僕たちが手がけた事例ではありますが、先日、廃棄されてしまうパンをアップサイクルしてペールエールを発売しました。

開発には生産者や事業者だけではなく、バイオテックなどを専門にしている研究者の方にもご参画いただいたんです。僕たちカフェ・カンパニーと、テクノロジーでイノベーションを創出し続ける研究者集団「リバネス」、シンガポールを拠点とする食品ロスをアップサイクルするフードテック企業「CRUST JAPAN」、日本のブーランジェリー文化を創り上げた「MAISON KAYSER」、個性ある独自の地ビールを製造する「ベクターブルーイング」で企画・開発・製造をしました。販売は、ECである「GOOD EAT CLUB」とそのオフライン拠点「GOOD EAT VILLAGE」1階のカフェ「PUBLIC HOUSE Yoyogi Uehara」で行っています。こんなふうに様々な人や分野と混ざりながら、おいしい化学反応を日本中で起こしていきたいんです。

全員で一緒に、本質的なところから

楠本:最後にSDGsに話を戻すと、もちろん食品ロスなどへの取り組みも大切ですが、結局はどうしてそれが大事なのかを明確にすることが必要だと考えています。その根本的な部分を、全世代が理解しないと格差が生まれてしまいますよね。だから、お互いが関わり合って対話するような、循環的な方法が欠かせません。子どもの純粋な問いを一緒に考えるとか、年長者の生活の知恵に耳を傾ける機会を持つことも必要ですよね。

もう一つ、理論的に語るだけじゃなくて、感覚的にかっこいいことも大切です。ある意味で80年代のファッションや音楽のように、感性に訴えるような食があってもいいはず。僕は、カフェ・カンパニーでももちろん、「GOOD EAT CLUB」でも、世代やジャンル関係なく多様な方々と共にそういった仕掛けをしていきたいと思っています。

Text:
Maho Kamagami
Edit:
Takahiro Sumita
Photo:
Eichi Tano

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