捨てられるはずの洋服・ジュエリーに新たな息を吹き込む二人が考える「アップサイクル」の面白さ
“TIMELIMIT”を迎えたはずの商品に再び息を吹き込むファッションブランド「Rename」とジュエリーブランド「mi luna」が考える「アップサイクル」自体の面白さとは。
廃棄される洋服のタグを付け替えることでファッションに新たな価値を生み出す「Rename」と、一度ジュエリーとして輝いた天然石をアップサイクルするブランド「mi luna」。“TIMELIMIT”を迎えたはずの商品に再び息を吹き込む二つのブランドが考える「アップサイクル」自体の面白さについて、創業者のお二人に話を伺いました。
(右)加藤ゆかり 株式会社FINE代表取締役CEO
椙山女学園大学で臨床心理学を専攻。ハウスメーカーの営業職に就いた2年後、2008年に株式会社FINEを設立、取締役に就任。2015年にアパレルのアウトレット流通に参入。2016年にアパレルブランドのネームタグを付け替えて再販売する、新しい流通システム「Rename」を開始。アパレル業界の新たなエコシステムともいえる「Rename」を軸に新しいサステナビリティを創っている。
(左)石田恵利花・株式会社スマートメディア mi lunaプロデューサー
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社サイバーエージェントに新卒入社。広告事業や複数のWEBサービスのプロデュース、マネジメントを経験。その後、音楽配信サービス「AWA」を立ち上げ、プロデューサーを務める。退職後はメキシコに在住し、現地のアーティストのジュエリーや世界観に刺激を受ける。帰国後に独立し、女性向けメディアの企画・マーケティングに携わり、2019年に「mi luna」を立ち上げ、地球にやさしいサステナブルジュエリーを展開している。
なぜ、お二人はアパレル、ジュエリーという分野でブランドを立ち上げたのでしょうか?
加藤:もともと色々な商材の再販売を行っていましたが、アパレルに出会ったとき、「まだ価値のあるものがどんどん廃棄されている」という現実を知りました。シーズンごとに新しい商品が出るので廃棄の数が多くて、再販売も難しい。それが本当にもったいなくて、なんとか新しい人に届ける方法はないかと思ったのがきっかけでした。
石田:私たちは、リユースデパートを運営しているコメ兵さんのオウンドメディアを作らせていただいていた際に、デザイン性の問題で売れ残ってしまう古いジュエリーの現状を知りました。それってすごくもったいないと思ったんです。私自身もジュエリーが好きで、指先がキラッと飾られているとやっぱり気分が上がりますよね。上質なものを持ちたいけれど高すぎるものは買えないという人に向けて、倉庫に眠ったジュエリーの再活用ができないかと、コメ兵さんと考え始めました。
ブランドを立ち上げるまでに色々と苦労したのではないでしょうか?
加藤:アパレル業界出身ではないので、信頼を得ることには苦労しました。また、ブランドさんは当然その名前に誇りを持っているので、そのタグを外すことに抵抗感がありました。ただ、SDGsの考え方が広まってきているタイミングではあったので、徐々に実績を重ねることで良い反応を得ていくことができました。
石田:宝飾も歴史のある業界なので、すべて1から学ぶことからのスタートでした。職人さんからジュエリー作りの工程を学んだり、 宝石の知識や採掘における環境破壊、労働問題についても。宝飾ってきらびやかだけど、悲しい一面もあるんだということを知って、その事実を伝えていく必要があるとあらためて感じました。
「mi luna」のビジュアルイメージ
アパレルもジュエリーも、トレンドがあったり、どんな商品が入ってくるかわからないなど、苦労することも多いのではないでしょうか。
加藤:何が入ってくるかわからないのは難しくもあり、同時にとても面白い部分でもあります。私たちが扱うのは数年前に販売されていたものなので、「デザインが古いと売れないんじゃないか?」ということもよく言われます。でも、自分のクローゼットにはまだ数年前に買った服がたくさんあるし、今も普通に着ているんですよね。デザインが古いから売れないというわけではないんです。
石田:私も毎月どんな石が入荷するかわからないというのが「mi luna」ならではだと感じていますし、その時々を楽しみに待っていてくださるお客さまも多いんです。デザインについても、入ってきた石を出発点として考えることも多いので、そこが面白い点かなと思います。加えて、私たちはアップサイクルのストーリーを商品とセットで伝えることを意識しています。SNSでも単に商品の写真だけではなく、「アップサイクルとリサイクルの違いとは?」「エシカルって実際にはどういうものなんだろう?」ということをインスタグラムでも載せています。
お客さまにとって、アップサイクルの良さはどこにあるのでしょうか?
加藤:先ほどの話にも付随しますが、何が入荷されるかわからないからこそ、商品と出会う偶然性が面白いんだと思いますね。洋服を買うとき、商品自体よりもブランドイメージを気にしてしまうことがよくあります。でも、そのせいで本当に好きなものに出会えていないかもしれない。「Rename」は元のブランド名を外して販売しているので、ブランドに対する先入観もなくなります。自分の価値観で、宝探しのようにものを選ぶことができる。かつ、良い品質でお得に買えるという利点もあると思います。
石田:「mi luna」も巡り合わせが一番面白いと思います。ポップアップではオンラインで欲しいものを決めてから来る方もいるのですが、「やっぱりこの石が呼んでる気がする!」などと、違う商品を買われていくことも多いんです。そのときの自分にとって、とっておきを見つけるような楽しみ方なんだと思います。また、ボリュームのある宝石が付いたK10やK18のジュエリーをお手ごろに買えるのも喜んでいただけるポイントです。
石川県にオープンしたばかりのRenameのLIMITED STORE
では、アップサイクルという観点で、これからチャレンジしたいことは?
加藤:「サステナブルなことをしていこう」というよりは、日々のなかで「もったいない」と感じる部分にどんどん食い込んでいきたいと思っています。不必要に思われる商品でも、「どこで誰にとって必要であるのか」という切り口に変えていけば、タイムリミットがあるもののほうが少ないと思うんです。そういう意味では、アパレルのみならず、ほかの商材もどんどん扱っていきたいと思っています。
石田:私たちはこれから「mi luna」のウェブマガジンを開始して、サステナブルなことや、ライフスタイルについての情報を発信していく予定です。単なるジュエリーブランドの枠を超えて「mi luna」に触れることが地球に優しいアクションへのきっかけになっていただけたら嬉しいです。その背景を知るきっかけを与えることも、一つの役割だと思っています。
最後に、日常においてものを捨ててしまうことは多いと思います。私たちが普段からできることはあるのでしょうか?
加藤:これからはものを選ぶ軸として「社会的な良さ」が加わってくると思っています。たとえば、紙のストローとプラスチックのストロー、どちらを使っているカフェに行くのが私たちの未来にとって良いのかを考える。日常生活においてもそういった選択軸を少し意識するだけで、これからの未来は大きく変わっていくと思います。
石田:同じく、自分が今使っているものやこれから買うものに対して、想像力を働かせることが大事だと思っています。「この商品を買うことで、これからの地球がどうなるんだろう」と想像を膨らませて、アクションをとることは今からでも気軽にできると思います。あと知識があるのとないのでは、まったく違いますよね。最近は色んな情報に触れる機会も多いと思うので、楽しみながら知って、選択につなげていくことが大事だと思っています。
実際にジュエリーに触れていただくPOP UP
加藤:「社会的な良さ」から入るというよりは、「この洋服いいじゃん!」というウキウキ感で商品を買ってもらって、後からその社会的背景を知ったときに、よりサステナブルに対する共感につながればいいなと思っています。
石田:本当にそうですよね。社会的な意義ばかりを伝えすぎるとお客さまも身構えてしまうので、私たちもバランス感を大事にしています。まずは商品が素敵だなと思ってもらって、付随する情報としてその背景を伝える。そこを理解したときに思い入れがもっと深まったり、心地良い気分になると思うんです。
加藤:「心地良い」って大事ですよね。自分が可愛いと思った商品が結果として社会的に良いものであれば、自分の選択をより肯定できると思いますし、それが心地良さにつながっていくんだと思います。そうやって社会的に良いことが「ナチュラルにかっこいい」になっていってほしいですね。
石田:今までは環境問題や社会問題ってかなり重いトピックで、そういう活動をしていると、意識が高いと言われていました。これからは私たちのような取り組みをクッションにして、身近なものとして日常に取り入れてもらえたらいいなと思います。
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- Photo:
- ブランド提供
- Text:
- Maho Kamagami
- Edit:
- Takahiro Sumita
- Design:
- Ayane Sakamoto