捨てられるコーヒーかすから生まれたブランド「HUG BROWNE」と共に考える、生活ゴミに対して私たちができること
増え続けるゴミに対して、私たちにできることはないのか。捨てられるはずだったコーヒーかすを使ったボディースクラブのブランド「HUG BROWNE」を創業した窪田亜由美さんに話を伺いました。
私たちの生活は“ゴミとともにある”といっても過言ではありません。生活をすることで使われたモノ、食べ物などはその一部が必ずゴミとなってしまうからです。では、増え続けるゴミに対して、私たちにできることはないのでしょうか。そのヒントを得るため、捨てられるはずだったコーヒーかすを使ったボディースクラブのブランド「HUG BROWNE」を創業した窪田亜由美さんに話を伺いました。
コーヒーかすからスクラブが生まれた背景
窪田亜由美さん。「THE LOCAL TOKYO」にて撮影。
最初に「HUG BROWNE」というブランドが生まれた背景をご紹介します。福島の会津若松で生まれた窪田さんは、自然の魅力や環境に対する意識を小さいころから持っていました。ブランドを作ろうと考えたのは、最近のこと。「ウミガメの鼻からストローが出てきた」という衝撃のニュースを見て、環境問題について改めて意識をするようになりました。そして、自分自身の暮らしを見つめ直すため、アメリカへ留学。そこで、環境問題に対する意識の違いを感じたといいます。
「アメリカでは、レストランで食べきれずに余った料理を持って帰るのが一般的でした。それってすごく合理的だなと。スーパーでも野菜がパッキングされずに売っていて、袋も必ず紙袋だったんです」(窪田さん)
日本に戻った窪田さんは夫が経営するコーヒーショップ「THE LOCAL TOKYO(旧:THE LOCAL COFFEE STAND)」で、たくさんのゴミが出ていることに気がつきました。日本人は平均して「一週間に11.09杯」のコーヒーを飲んでいるといいます。せっかくバリスタがこだわって選んでくれたコーヒー豆を1回使って捨ててしまうなんて、もったいない。そこで、コーヒーかすを使って化粧品を作れないかと考えるようになりました。
日本では馴染みの少ないボディースクラブですが、湯船に浸かる文化のあまりない欧米では、日々の生活に取り入れていたといいます。コーヒースクラブもごく一般的に売られていて、特に自然由来の原料を使っていれば、水に流しても環境への影響は少ない。窪田さんは、日本でもボディースクラブが普及すれば、マイクロビーズ(洗顔料や歯磨きなどに含まれるマイクロプラスチック)を減らすことにもつながるはずだと考えました。
既存の仕組みをはみ出してまでこだわった製品・パッケージ
もともとモノ作りの経験がなかった窪田さんは、国内の化粧品工場に相談するも、うまくいきませんでした。日本では法律やルールに従った製造をするため、基本的には工場が持っている一定基準をクリアした原材料しか使えないからです。たくさんの工場に相談をして、ようやく窪田さんが回収したコーヒーかすを処理・加工して製品化してくれるという工場に出会いました。
ゴミを増やしたくないという思いは、製品作りにも表れています。「HUG BROWNE」のサイトには、このように書かれています。
「かわいい容器や贅沢に演出された包装・梱包でキラキラ・ワクワクと心が踊ります。しかし、私たちは見た目のかっこよさ・かわいさに夢中になりすぎて、環境への配慮を見落としている気がします」
そんな思いを胸に、容器には軽くて加工しやすくお金のかからないプラスチックを使わず、重いけれどリユースやリサイクルができる日本製のガラスびんを採用。さらには、蓋の上からかぶせるプラスチックフィルムもやめて、製品情報はガラスに直接印刷をすることで無駄なパッケージのゴミをほとんどなくしたのです。
「基準があるからこそ、日本の製品は安全だと言えるわけですが、そのぶんいろんな制限があるのも事実です。容器をガラスにしたいと言ったら『危ないから』と反対されましたが、絶対に譲れませんでした。蓋にかぶせるフィルムも『開けらていないという安心感』のためのもの。ただ開けなければいいだけの話なのだからと、なくすことにしたんです」(窪田さん)
パームオイルって知ってる?
窪田さんは「パームオイル」という原料について教えてくれました。パームオイルはアブラヤシという植物から採れる植物油。インスタント麺やチョコレート・アイスクリームなどの食用に加えて、シャンプーや歯磨き粉・化粧品など食品以外のものにも幅広く使われていて、日本でも年間約70万トンが輸入されており、日本人1人あたりのパーム油の年間消費量は約5kgにものぼります。
朝から晩までお世話にならないタイミングがないといってもいいほど生活に浸透しているパームオイル。これがアブラヤシ農園開発による森林破壊や生物多様性の喪失などの問題を引き起こしている側面を持っているというのです。しかし、様々な呼び名があることから、窪田さんも製品が完成した後に、「HUG BROWNE」の原材料の一部にパームオイル由来の原料が使われていることに気がついたそうです。
「環境に負荷をかけて作られた原料が含まれた製品を作ってしまったからには、少しでもこの商品が売れることで環境に対して還元できる取り組みがしたい。そう思って、パーム油生産主要国であるマレーシア・ボルネオ島の動植物保全に取り組むNPO(ボルネオ保全トラスト・ジャパン)に一部売り上げを寄付することにしました。これはパームオイルを使う企業としての責任だと考えています」(窪田さん)
すべてを排除するのではなく、使う場合は責任を果たす。これは私たちも日常に取り入れられる考え方だと思います。そもそも、パームオイルの使用を一切なくせばいいかというと、そうではありません。パームオイルは土地あたりの生産効率が高いため、同じ量の植物油を作ろうとした時に使用する農地の面積が少なくて済むという一面もあるそうです。作るのがまずいのではなく、作り方や背景について知り、正しく作って正しく使い、責任を果たすことが大切だと窪田さんは考えます。
今後はRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証のオイルなど、ほかのオイルへの転換も検討していますが、原価が高くて製品化できないなどの課題もあり、「正しいモノ作り」を考える日々は終わらないといいます。
私たちが生活ゴミに対してできること
日々環境のことを考えながらモノ作りに向き合う窪田さんですが、ゴミ問題に対して、どんなことを考えているのでしょうか。ブランドしての展望を聞くと、窪田さんはこう話します。
「今はゴミの回収をしているだけで、まだまだ循環を作れていないと感じます。今後は日本中のカフェからコーヒーかすを集めて再利用するなど、もっと大きな循環の仕組みを作れたらいいなと思います」(窪田さん)
ほかにも、コーヒーかすを集めて堆肥にしている企業やコーヒーショップもあるといい、同じように、使う人たちが循環を考えられる社会を目指していきたいというのが窪田さんの目標だそう。では、使う側である私たちは、どんなことを意識すればいいのでしょうか。
「視点を変えるといいと思います。それは本当にゴミなのか、ほかに使える方法はないのかを考えてみると面白いですよ。たとえば、最近ベッドカバーを愛犬にボロボロにされたんですが(笑)、ゴム部分は洋服のお直しに使って、布部分は雑巾として再利用しました。捨てる方が簡単ではありますが、ちょっと視点を変えると再利用の方法はいくらでもあるんです」(窪田さん)
日本では平均して一人一日あたり918g のゴミを出しているそう。年間では約335kgというかなりの量になります。
だからといって、ストイックにゴミをなくすのではなくて、ちょっとだけ視点を変えることで、生活が少しずつ豊かになる。私たちが毎日の生活でできることも少なくないようです。
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- Photo:
- Eichi Tano
- Text&Edit:
- Takahiro Sumita
- Design:
- Ayane Sakamoto