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「あふれる想いを線にのせるとアートになる。モノにのせるとそれはギフトになる」 クリエーティブディレクター MELTedMEADOWのサムネイル

「あふれる想いを線にのせるとアートになる。モノにのせるとそれはギフトになる」 クリエーティブディレクター MELTedMEADOW

新たな編集テーマの空間演出、アートディレクションを担当した「MELTedMEADOW」のお二人に聞くギフト体験。

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CHOOSEBASE編集部
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CHOOSEBASEに関わる、ヒト・モノ・コトをクリエーターの皆さんといっしょにお送りするオリジナルコンテンツです。 写真、インタビュー、コラム、エッセイ、小説など、多彩な記事で、皆さんの日常の選択を豊かにできたらと思っています。
「あふれる想いを線にのせるとアートになる。モノにのせるとそれはギフトになる」 クリエーティブディレクター MELTedMEADOWのサムネイル

「CHOOSEBASE SHIBUYA」の新たな編集テーマは「gift your color / 何色にしよう」。「色」をキーワードにした新しいギフトの選び方、あなただけの「色」を誰かに伝えるギフトの贈り方をご提案しています。そして、この「連載 gift your color」では、さまざまな人のギフトにまつわるストーリーをお聞きし、ギフトの魅力について深掘りをしていきたいと思います。

初回は新たな編集テーマのグラフィックや空間演出全体のアートディレクションを担当してくれた「MELTedMEADOW」のお二人。今回のテーマ・演出に込めた思いから、お二人のギフト体験まで、お話を伺いました。

 

MELTedMEADOW

(略:メルメ)は2人組のクリエーティブディレクター。 ウェブデザインやシステム構築、グラフィック、アート・キュレーションなど多岐にわたるアプローチで、日常から新しい世界を切り開く体験を創造する。

柳瀬正義(右)

1997年 神奈川県出身。東京藝術大学大学院美術研究科在籍中。建築的思考による場や文脈の読み解きから生まれるデザイン、企画を得意とする。合同会社MELTedMEADOW代表。

吉野真央(左)

1996年 愛知県出身。2021年 東京藝術大学工芸科卒業。企画からグラフィック制作まで、一貫した世界観を作り上げる。個人ではアーティストとして展示活動を行う。

ーーMELTedMEADOW結成の経緯をお聞かせください。

柳瀬:二人ではじめて会ったのが2020年の夏で、谷中にある古い洋食屋に行きました。その時はお互いに藝大にいたので制作の話をしたり、将来の話をしたりしていたんです。

吉野:ちょうど卒業が近いタイミングだったね。

柳瀬:当時真央ちゃんは自分の作品をいろんなカフェに置いていました。時には飾られたり、陶芸の作品は実際に使われていたり。それに何かピンと来るものがあって、「どんなアーティストでも、どんな場所にでも展示できたらすごい良い都市になりそうじゃない?」と話したんです。例えばカフェとかホテルに作品が展示できたらアーティストもお客さんも、そして何よりその場所も嬉しいんじゃないかなと思ったんです。

そんな時、ご縁あってJR西日暮里駅の中で展示させてもらえることになりました。手元にある作品を展示しようかなとも思ったんですが、せっかくなら人々を巻き込んだ体験をつくりたいと思いました。そこで、駅にあった立ち入り禁止エリアの中に巨大なゴミ箱を置くことにしたんです。そして、立ち入り禁止の前の通路に紙とペンを置いておいて、「気持ちを描いてPoiしよう」という言葉を掲げました。紙に自分の気持ちを絵や文字で描き、くしゃくしゃと丸めて立ち入り禁止エリアの中の大きなゴミ箱のなかにポイって投げ入れてもらったんです。

それが2020年の冬ごろでしたから、ちょうどコロナが広まり始めたタイミングということもあり、たくさんの人が自分の鬱屈とした気持ちや願いを描いてくれて、4日間で500以上のPoiが集まりました。とりあえずやってみようと思って始めた企画でしたが、何もなかった場所に人それぞれの感情が溢れてきたことに感動しました。どんな場所でも、こういう可能性が眠っているんじゃないかと考えて、MELTedMEADOWを結成しました。

 

ーーお二人が活動するときにはどのように役割分担をされているのでしょうか。

柳瀬:あえて分けるとしたら、僕がディレクターで真央ちゃんがアーティストなのかな。

吉野:でも、実際には入れ替わったり、お互いにどっちの役割もしていて、二人で全体を担当しています。

柳瀬:一緒に企画を考えて、ネーミングやロゴを作って、キュレーションして、空間、グラフィックのデザインもして、さらにウェブを構築したり、商品の販売方法までデザインしたり…。何かやろうと思ったら一貫した世界観を作りたいので、なんでも二人でやりますね。そのなかでも、場所や空間をどういう方向性に持っていくのかを考えるのが一番好きです。何もない空き地を見て、歴史や土地柄を考えて建物を作る建築の発想に近いかもしれません。駅の何もない壁とかを見て、この場所はこう使ったら面白くなりそうだなということをいつも考えています。

ーー「CHOOSEBASE SHIBUYA」の新たな編集テーマは「gift your color / 何色にしよう」に決まりましたが、お二人はこのテーマとの親和性も高いと伺っています。どんな思い入れがありますか。

吉野:私個人としては小さいころから人に何かあげるのが大好きで。最初はよく手紙を書いていたりしていたのですが、だんだんと言葉だけに自分の気持ちをのせきれなくなってしまって、封筒に絵を描いていくようになっていきました。定期的にこのあふれた気持ちを外側に出していくことが、自分を救ってくれたり生き延びさせてくれている感覚がありました。ギフトが私のアーティストとしての行いの原体験なんじゃないかなという思い入れがあったので、今回ギフトにまつわる企画をやることになって一層力が入りました。

柳瀬:あふれる想いを外に発散しなければいけない人っていると思うんですけど、真央ちゃん含めて、そういう人がアーティストになるんだろうなって思っています。多くの人は自分でアートは作れないと思うかもしれないけど、アートって自分のあふれる思いを何かのモノに還元する行為なので、そういう意味ではギフトはアートの第一歩かもしれない。また、これは僕の勝手な解釈ですが、プレゼントとギフトは違うものだと思っていて。ギフトはモノを指しているんじゃなくて「行い」であり、自分の気持ちを誰かに伝えることなんじゃないかなと思っています。だから、今回のテーマを通して自分の内側にある気持ちを外に出す手段を身につけるお手伝いができたらいいなと思っています。「誕生日だから良いものをあげなきゃ」という考え方ではなく、日常の中で湧いてくるさまざまな気持ちを外に出してあげるための「ギフト」という行為。そういう新しい視点でギフトを考えてもらえたらいいなと思っています。

 

 

ーーお二人にとって、記憶に残っているギフト体験があれば教えてください。


吉野:私個人の話になりますが、卒業制作の時の経験が印象に残ってます。アートをやるようになったきっかけがギフトというのもあり、作品はギフトのようなものなんです。大学の卒業制作でもそうでした。100個近い燭台を土で作り続け、作品に込めた思いが誰かを包み込めたらいいなと思って、見てくれた人全員にギフトをするような気持ちで展示しました。そうしたら作品を見て一人の方が大号泣して「これを見て救われた感じがした」って言ってくれたんです。伝えようと思って作ったものって本当に伝わるんだなって気づいた瞬間でした。このときに、ものづくりを一生続けようって思いました。

柳瀬:MELTedMEADOWとして駅の中の企画で「アートギフト」というアートを販売する仕組みを作りました。アートを買うのって結構壁があるかなと思うんですけど、ギフトとしてアートを買うんだったら自分へのご褒美とか、大切な人にあげるのに想像しやすくなるかなと思ったんです。大きな作品じゃなくて、受注してから制作する小さなドローイングだったり、アーティストが自分で決めた物を「アートギフト」として販売しました。そしたら、アートを今まで買ったことがない人が買ってくれたりして、ギフトの可能性を感じました。会社で賞をもらったから何か自分に買ってあげたいと思った時にたまたま通りかかったとか。そういうのを聞けたのは嬉しかったですね。

 

ーーでは最後に、今回の「CHOOSEBASE SHIBUYA」の空間に込めた思いや、ご来店の方にどんな楽しみ方をしてほしいか、お二人の考えを聞かせてください。

柳瀬:一番は、ブランドひとつひとつを読み解き、絵と詩で表して全ブランドのカードを作ったことですね。ブランドをキュレーションする「CHOOSEBASE SHIBUYA」がどれだけブランドを理解し、共感し、愛があるかを表現することが何より大切だと思ったんです。並べられている商品って、お店からのギフトみたいなものです。お客さんはそれをまた誰かに贈る。売場の「意志」みたいなものを店内で感じられる空間演出ができていたらいいなと思っています。

吉野:「私は今は化粧水しか探してないから」と考えて買い物に行くと、化粧水しか見えてこないですが、「ギフト」と言われるとあの人やこの人のことを浮かべていろんな商品が目に入ってきていろんな商品と出会う可能性が出てくると思います。見ようと思わないと見つけられない商品もあると思うので、そうやってギフトをきっかけに新しい出会いを楽しんでいただける場所になったらいいなと思います。

Text:
Natsu Shirotori
Edit:
Takahiro Sumita
Photo:
Eichi Tano
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