日本工房探訪 vol.3 鹿児島県老舗イワシ丸干し屋「下園薩男商店」がクラフトコーラやジビエジャーキーを作る理由
「CHOOSEBASE SHIBUYA」に出店いただいているブランドの魅力を現地からお届けする連載企画「日本工房探訪」。それぞれの街におけるサステナブルなモノづくりの様子を写真家・もろんのんさんが写真と文章でお届けします。第三回は鹿児島県の阿久根市でイワシの丸干しを作る加工食品の老舗「下園薩男商店」。環境問題が直結する漁業という現場で感じたことを生かして、新しい加工食品の製造などに取り組む現地の様子をお届けします。
老舗の丸干し屋だけど、クラフトコーラも作る下園薩男商店とは
鹿児島県の湯田にあるイワシの丸干しを作る工場
下園薩男商店は1939年創業の日本で一番大きなウルメイワシの丸干し屋です。今回お話を伺うのは3代目の代表取締役 下園正博さんです。なぜか丸干し屋なのにクラフトコーラ「パーティータイム」や「鹿肉ジャーキー」なども作っており、イワシの丸干しに留まらずに多種多様な商品や事業を行っている下園薩男商店。
今回の取材では古きを守りつつどのような想いで新しいものづくりに挑戦しているのか、裏側をひも解いてゆきます。
下園薩男商店が考える環境問題
穏やかな朝の海の阿久根漁港
鹿児島空港からバスで2時間程度揺られた場所に位置する阿久根市。イワシの丸干しをつくる会社が10軒も同じ地域に集まっているのはこの周辺しかないそうです。
丸干し屋である下園薩男商店が直面している課題が地球温暖化です。鹿児島市の平均気温は100年あたりで1.87℃上昇しているといいます。(※1)このままだと水産資源環境が変動して、今後魚が上がらなくなってしまう危険もあるのです。
今までと同じことを繰り返すでけでは水産資源の未来がないのではと考え、下園薩男商店ではSDGsの動きにいち早く取り組みました。
毎朝、代表の下園さんが仕入れに赴く阿久根漁港
阿久根漁港の朝の水揚げの様子
イワシビルから車で5分程度の場所にある阿久根港。下園さんはほぼ毎朝、自分自身でイワシの買い付けや市場調査へ赴きます。
水揚げされた魚を種類ごとに手作業で仕分けされます
魚というのは毎年気温や環境によって、仕入れ量や価格を読むことが非常に難しく、例えばある時期に高値で買わなかったりすると、それ以降はもう仕入れられなかったりすることもあります。そうなると下園薩男商店のメインの売り上げとなっているイワシの丸干しを作ることができなく、欠品になってしまう。
買い付けたイワシを、自社の樽へ移します
しかし高値で買っても、読みが外れることもあるから、漁師さんや同業者の方と情報共有をしつつ商品にもなるイワシを直接買い付けることが下園さん自身にとってもやりがいにつながるそうです。
ちなみに朝獲れイワシはお腹の中に何も入っていないので、丸干しをすると苦味がなく美味しいんです。私はイワシってよくアヒージョに入ってるイメージですが、確かに独特の苦味を感じてました。しかし下園薩男商店のイワシは苦味がなく丸干しされた旨みがギュッと詰まっていました。
一尾一尾手作業で干されるイワシの丸干し
イワシの丸干しの主な工程は、串刺し、乾燥、袋詰めです。スタッフさんが、一尾一尾手作業で串刺しにしていきます。こちらの写真くらいの15cmより大きいイワシですと、顎を刺して約1日軽く干します。12〜13cmくらいまでのイワシは眼を串で抜いてカリカリになるまで乾燥させます。
目抜きで干された丸干しイワシ
左上から「旅する丸干し」「港町のバタークリーム」「焼海老辣油」「Kots」と「はらぺこイワシ。」
下園さんはスーパーなどに行った時に、干物を買っているのがご高齢の方が多く若者が買っていないことに気がつき、売り方を変えようと決めました。例えば若い方が手に取りやすいようなデザインや、小さいお子さまでも食べられるような「はらぺこイワシ。」などが生まれました。
ちなみにイワシは「泳ぐカルシウム」と呼ばれるくらいカルシウムが豊富なので、成長期のお子さまやカルシウム不足になりがちな大人でも取り入れたいですね。私はこの事実を知ってから、下園薩男商店で購入をした丸干しイワシをおやつに食べるようになりました。
2017年に直売所かつ簡易宿泊施設である「イワシビル」がOPEN
ショップ、カフェ、加工場と簡易宿泊施設
例えば「スターバックス」ってお店を見たりその環境を思い浮かべるだけで商品を想起しますよね。そのようなブランドを目指して、2013年に「旅する丸干し」を発売した時からお店をやりたいと考えていたそうです。
そして下園さん自身も幼少期に2代目代表であるお父さま(現会長)の時代に工場などを見ていた経験から、いつか加工場もあるお店を作りたいと思っていて、ショップカフェと工場を併設した「イワシビル」を2017年にOPENしました。
イワシビル1階のショップ&カフェ
飲食だけでなく、従業員のユニフォームなどのアパレルもあります。ショップで販売しているさまざまなグッズの描かれたハンカチが可愛くて、自分へのお土産に2枚買っちゃいました。
イワシビル3階のホステルのロビー
イワシビルの3階は、簡易宿泊施設のホステルです。「旅する丸干し」の商品コンセプトともマッチしているので始めたそうです。
お店だけだと「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」という会話だけで終わってしまうかもしれませんが、宿泊となると「どこからいらっしゃったんですか?」とか「どこで知ってくださったんですか?」という会話にも繋がり、より深いコミュニケーションができるというのも、お店をはじめてよかったと思う点だそうです。
宿泊者限定の朝食
脂がのったイワシの丸焼き、イワシビルで作られている焼海老辣油と半熟卵、鹿児島産のキノコが入ったお味噌汁など…。こちら全部で税込800円という驚きの値段です。
じゃりっとした食感が楽しい「港町のバタークリーム」を製造中
1階ショップで販売をしている各商品をこちらで製造しています。入り口は開放されており、立ち寄ったお客さまもその様子を見学することができます。
今あるコトにひと手間加え、それを誇り楽しみ、人生を豊かにする
朝、イワシビルに差し込む斜光
どうしてイワシの丸干し屋さんがこんなにも沢山の商品を作って販売をしているのか?と私は最初に思いました。しかし代表の下園さんにその理由を伺っていくと2つの理由が分かりました。
まず1つは、これから変わっていく未来に対して、今鹿児島や阿久根にある環境問題を、どうやったらよりよく解決することができるのか?を考えているから。そして2つ目は、下園さんご自身の周りの環境や人やモノなどをパズルのようにバラバラになったものを繋げて、それらがカチッとハマる新しいことを考えている瞬間にワクワクさを感じるからです。
「CHOOSEBASE SHIBUYA」で販売中の3つの製品
左上からジビエブランドの「鹿肉ジャーキー」、阿久根で増えすぎてしまったウニの殻に含まれるカルシウムを取り入れた「ウミカルビスケット」とクラフトコーラ「パーティータイム」。
最後に、各製品についてご紹介をさせてください。まず「鹿肉ジャーキー」について。鹿は有害鳥類に指定されていて狩猟や捕獲の対象となっているのですが、北薩地方に狩猟の加工施設がありジビエが盛んなのです。またこの地域の鹿は北薩で盛んに生産されているボンタンや木の皮を好んで食べてしまうため、柑橘農家が困っているのです。そこでジビエである「鹿肉ジャーキー」が産まれました。低カロリーで高タンパク質な上に地球温暖化を止めることにも繋がるのです。
次にクラフトコーラ「パーティータイム」は、味は美味しいけれども製品にできない傷物の柑橘をふんだんに使っています。水を使わずに果汁を使って作っているので非常にフルーティーなクラフトコーラなのです。
最後に「CHOOSEBASE SHIBUYA」でも大変人気の「ウミカルビスケット」は、阿久根の海でウニが大量発生することで、ウニたちが藻場を食べ尽くしてしまう問題が起きているのです。そのウニたちを駆除した時に発生するカルシウムがたっぷり含まれたウニの殻を粉にしてビスケットを作っています。
しお、さつまいも、黒糖味がありますが、私はほっくりした甘みを感じるさつまいも味が一番好きです。
今回は3商品を紹介させていただきましたが、ほかにも「ジビエソーセージ」や、大人気の「旅する丸干し」などたくさんの商品を扱う下園薩男商店に目が離せません。今後は枕崎にも新店舗「山猫瓶詰研究所」をOPENさせる予定だそうで、また完成したらぜひ訪れたいです。
何か商品を選ぶことは、どんな未来に投票をするかを選ぶこと
最初は、イワシの丸干し屋さんがどうして多種多様な商品やビジネスをされているのかが不思議でしたが、常に〈今あるコトに一手間加え、それを誇りに楽しみ、人生を豊かにする〉ということを大切に、そして一人ひとりのスタッフさんや阿久根の得意なことを組み合わせて新しいことが生まれていることを知ることができました。
栄養価も高く、デザインも素敵な下園薩男商店の商品たちは、友人やご家族のちょっとしたプレゼントにもピッタリです。ぜひ「CHOOSEBASE SHIBUYA」で見つけて見てくださいね。
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※1:http://www.pref.kagoshima.jp/ad08/kurashi-kankyo/kankyo/ondanka/tekiou/jouhou.html
下園薩男商店の商品はこちら
- text & photo:
- もろんのん
- edit:
- Takahiro Sumita
- design:
- Ayane Sakamoto