みんなが笑顔になるためにできることはなんだろう? 香川発の手袋ブランド「ecuvo,」と鎌田安里紗が考える
香川県で手袋をつくる老舗企業・フクシンが立ち上げた新たなサステナブブランド「ecuvo,」。ブランドが掲げる“みんなが笑顔になるために”という言葉の本質について、フクシン代表・福﨑二郎さん、一般社団法人unistepsの共同代表の鎌田安里紗さんとともに考えました。
香川県で手袋をつくる老舗企業・フクシンが立ち上げた新たなサステナブルブランド「ecuvo,(エクボ)」。“みんなが笑顔になるために”を合言葉に、再生ウールなどの再生素材やオーガニックコットンなどの天然素材を使用して、手袋や靴下をつくっています。
そして、このブランドとも親交があり、香川の工場にも訪れたことがある一般社団法人unistepsの共同代表でエシカルファッションプランナーの鎌田安里紗さん。サステナビリティという観点から、みんなが笑顔になるために、私たちにできることはなんなのか。フクシン代表・福﨑二郎さんとともにお話を伺いました。
まずはフクシンという会社について、簡単にご紹介いただけますでしょうか。
福﨑:手袋の産地である東かがわ市で、1977年に創業しました。卸売業から始まりましたが、メーカーさんが小売店と直接取引されるようになってきた中で、「メーカーさんが川下に下りてくるならば、僕らは川上に上がっていこう」と、私たちも自社オリジナルのブランドや商品をつくるようになりました。そうして、国内工場で自社完結できる体制を整え、今では売り上げの8割が自社企画のオリジナル商品です。
今回の売場のテーマである「サステナビリティ」という観点で、会社として意識してきたことはありますか。
福﨑:2016年に創業者である父の後を継いで2代目の代表に就任したのですが、まずはインナーブランディングに焦点を当て、メンバーたちの意識をより高めようと考えました。そうして、先代から引き継いだ社是である「明るく楽しく元気よく」という言葉を土台にしつつ、手袋の「紡ぐ」という言葉を用いた「たくさんの笑顔を紡ぐ」というスローガンを掲げたんです。僕からするとサステナビリティという言葉はみんなで“笑顔”でいるための活動」と解釈できるんですね。「たくさんの笑顔を紡ぐ」活動も、メンバーが働きやすい環境を整えることも、すべてサステナビリティにつながると考えています。もっと具体的なところで言えば、昨年12月から再生可能エネルギー100%の電力の購入契約をしていたり、今年6月には社屋の屋上に太陽光発電システムを設置。すでに約25%の電気を自社発電で賄っています。
鎌田さんとフクシンさんは、どのような経緯で出会ったのでしょうか。
鎌田:フクシンさんから連絡をくださったのが最初でした。企業さんからのお声かけで「プロダクトを送るので紹介してください」「紹介してくれたら○円お支払いします」というような相談はよくあるのですが、私はそういうお仕事をお受けしていないんです。でも、フクシンさんからは「一度、私たちの工場を見に来ていただけませんか」とお声かけをいただきました。「会社がどんなことに取り組んでいるかを見て、実際に見たことを一緒に発信してほしい」と。その考え方が素敵だなと思い、工場に伺ったのが、一年前の秋ごろでした。
鎌田安里紗 「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」、衣食住やものづくりについて探究するオンラインコミュニティ「Little Life Lab」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。
当時のことをどのように覚えていますか?
鎌田:工場を一通り案内していただいて、特に印象的だったのが、働いてる方々の姿です。これまで見てきたものづくりの現場の方って、寡黙で作業に集中されている方が多かったように思うのですが、フクシンさんの工場の方々は、皆さん明るくフレンドリーに接してくださって。私が歩いているだけでも「この工程ではこんなことやってるんですよ」「あれはこういう機械なんです」と、にこやかに話しかけてくださって。すごく楽しかったのを覚えています。
まさに、福﨑さんがおっしゃる「笑顔」が体現されていたのですね。では、福﨑さんから今回出店いただいているブランド「ecuvo,」について教えてください。
福﨑:先ほどお話ししたように、僕はメンバーみんなが健康で明るく働ける社内環境を整えるためにインナーブランディングを進めてきました。そしてその土台が出来上がり、今度は外に向けて発信していくアウターブランディングにも力を入れていこうと考えたんです。そのなかで生まれた一つのブランドが「ecuvo,」です。「たくさんの笑顔を紡ぐ」会社から生まれたブランドなので、笑顔の象徴である“えくぼ”を名前にしたんです。
実は、先ほどお話しした再生可能エネルギーのアイデアは「ecuvo,」の商品開発を進める中でメンバーから出てきたものだったんです。「サステナブルなブランドをつくるために、機械を動かす電気が二酸化炭素をたくさん排出するのは良くない。再生可能エネルギーを使ったらどうだろうか」と。最初は「もっともだけど、経営的に考えると大変だな・・」なんて思いましたが、やれることは全部やろうと決断して、今に至ります(笑)。
「ecuvo,」が生まれた背景にも、サステナビリティの視点があったんですね。
福﨑:商品の材料をエコな素材にするというのは、最近ではもう当たり前ですよね。僕たちは自社ですべてをやっているので、材料以外でも、使い方や売り方、買い方においてもサステナブルな提案をしていこうと考えています。たとえば、永久修理保証や、片手・片足のみの販売、セールの取りやめなど。なかでも我が社の特色だと思うのは、無料の永久修理保証ですね。去年始めたばかりですが、修理を希望されるお客さまは一定層いらっしゃいます。「ボタンがはずれたので付けてください」という些細なものから、「どういう使い方すればこんな大きな穴開くんだろう」というような修理のご依頼もあります。
修理は無償なんですか?
福﨑:無償ですね。でも、商品をお送りいただくときに「暖かくて気持ちいいので毎日履いていたら、こんな大きな穴が空いちゃいました」なんてお手紙を入れてくださることもあって。それだけ我が社の商品を愛用してくださって、修理してまで使い続けたいと思ってくださるなら、僕たちもなんとしてでもお返しがしたいですよね。永久修理保証を始めたことで、直接金銭的利益はなくても、お客さまがものを大切に使う熱い思いを持ってくれていることを感じられるようになりました。社員にとっても、お客さまから届いたお品物一つひとつを、お客さまの顔を見て声を聴きながらお直しすることがモチベーションや喜びにつながっています。お客さまからの「ありがとう」という声は、つくっている側まではなかなか届きませんでしたからね。
鎌田:「直せる」ということをブランド側からうたってくれるのはとても重要だと思います。私は、靴や鞄などを買う時に修理を受け付けているところで買うようにしているのですが、つい最近、ニットパンツを直してもらいたくて近所のお直し屋さんに持って行ったら、技術的に直せないと言われてしまって。気に入って買ったものやずっと使ってきたものを直せないというのはすごく悲しいですよね。つくった人が責任を持って直してくれるというのはすごく魅力的です。
福﨑:「かぎ継ぎ」という方法でニットを直すのですが、うちの社内にはそれができる技術者が何人もいて、どうやって直すんだろうと思えるような大きな穴が空いてるニットの靴下も綺麗に直せるんです。
鎌田:特にニット製品は、直せなくて困ってる人が日本中にいると思うので、フクシンさんにぜひ、有料でもニット製品お直しサービスやっていただきたいくらいです。そもそも、「直して使う」という価値観自体を発信してくださるのも大事だと思います。私自身よくお直し屋さんにお世話になっているのですが、購入した際の値段と、お直しの金額が同じくらいだとためらってしまうこともあります。今や大量生産によって物の単価が下がり、たとえば修理に数千円かかるのなら「買った方が安い」と帰ってしまう人もも増えていると聞きました。でも、一度でも直して、その服に対する愛着が深まった経験があると、直して使い続けるという価値観が育まれていくと思うので、フクシンさんのお取り組みはそのきっかけをつくっていると感じます。
鎌田さんはサステナビリティに取り組むいろいろな企業やブランドを見てきたと思うのですが、フクシンさんのように、環境に配慮したものづくりを意識するというのは日本全体として主流になってきているのでしょうか。
鎌田:そうですね。色々と取り組まれている企業さんは増えていると思います。フクシンさんは、なかでも包括的に取り組まれている印象があります。色々とお話ししていただいたように、再生可能エネルギーや再生素材の使用など、自然環境に対することから、働いてる方の福利厚生を充実させることまで、幅広い取り組みをされています。福﨑さんご自身が楽しそうなのが印象的ですね。以前福﨑さんとお話ししたときに、海岸のゴミを拾いながらランニングされているとお聞きしたんです。それってもはや会社も仕事も関係ないことですよね。何でも楽しんでやってみるという福﨑さんの姿勢を社員の方も見ていて、「じゃあ自分もやってみようかな」と前向きになれるんじゃないかと感じました。もちろん、たくさんご苦労もあると思いますが。
福﨑:苦労というのは、あまりないですよ。というのも、メンバーたちの「たくさんの笑顔を紡ぐ」という思いや活動の中から生まれてきたアイデアばかりなので、メンバーの抵抗感や反発は基本的にないんです。
福﨑さんは、自然とそういうマインドでやられてるのですか。
福﨑:自然、だと思います。少なくとも無理してやっているわけではないですね。何事も無理やりすると苦しくて続かないじゃないですか。ゴミ拾いに関しても別に毎日毎日しているわけではないですよ。でも、「こんなにポイ捨てするなんて…」みたいにネガティブな気持ちでやるのではなく、綺麗になっていく海岸を見ていて純粋に自分が気持ちいいと思える。それだけです。どうせ走るなら、落ちているゴミを見て見ぬ振りができないですから。走りながらでもゴミを拾って、振り返った時に綺麗になっている道を見ると、自分の心の汚い部分も綺麗に洗われるような気持ちになります(笑)。
でも、そんな話をした後に言うと格好がつかないかもしれませんが、実のところ、冬物の手袋を扱う僕たちにとっての最大の悩みは暖冬なんです。暖冬のためにニット類が売れず、2〜3割売り上げが落ちたりする。地球温暖化はビジネスという観点でも僕たちの大敵です。これからの時代、お客さまにより良い商品やサービスを届けるという話だけでは生き残っていけません。地球温暖化など環境に対してアクションを起こしていかないといよいよまずいという危機感があって、サステナビリティに本腰を入れて取り組むようになりました。「冬がなくなったら、もう自分たちの商品は売れなくなる」という恐怖にも近い気持ちが、根底にありますね。
ビジネスという観点でも、危機感としての実感としてあったわけですね。一方で、消費者として、個人として、地球温暖化などの環境問題をなかなか自分ゴト化できない方も多いと思います。そこに対する工夫や心がけなどあるのでしょうか。
鎌田:「環境問題」とか「サステナブル」というと、どうしても「やるべきことに正解がある」みたいな雰囲気がありますよね。でも、自分の感覚としては、正しいことをしているというよりも、ふと疑問に思ったことを調べて、そこから生まれた素朴な感覚に従って、自分の些細な意思決定を変えているだけなんです。「サステナブルな活動をする」というと、正しいことに従わなきゃいけないように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
福﨑さんが「走っていたらゴミが目に入って、そのまま通りすぎるよりも拾った方が気持ちいい」と話されていましたが、私も「ペットボトルを毎日買うより、ゴミが出ず見た目も気に入っているマイボトルを使う方が気持ちいい」と思ったり、そういった自分の正直な感情に忠実なだけなんだと思います。心の底から環境破壊をしたい人なんて、多分いないじゃないですか。自分の感覚に敏感になって、その感覚に素直に選択をしていけば、それはちゃんとサステナブルな生活につながるはずです。
では、最後に、「CHOOSEBASE SHIBUYA」に来られる方や「ecuvo,」の商品見てくださる方へ、メッセージをお願いします。
福﨑:商品を見ただけではなかなか伝わらないと思うので、実際に手にとって使っていただく中で、僕らの想いやを少しでも感じていただければ嬉しいです。“家族でこたつに入ってみかん食べながら紅白歌合戦見る”ような、日本的な情緒ある寒い冬がずっと続いていて、そこに「ecuvo,」があったらいいな、と(笑)。四季があるからこそファッションもあるので、美しい四季とともにある日本の社会を未来の子供たちにバトンタッチし、“笑顔”をつなぐ、“紡ぐ”ということが、僕たちの使命です。あんまり「義務」だなんて言うと息苦しさがありますが、一人ひとりがちょっとしたことを気遣うだけで大きく違うと思うので、「ecuvo,」を通して皆さんが自然とそういう気持ちになっていただければ嬉しいです。
鎌田:何か問題が起きていることを知ると、自分の中から自ずと出てくる“反応”があると思うんです。少し前まで、私は「知ることが大事」ということが腑に落ちなくて、「知るだけじゃ意味ないのでは」と思っている部分がありました。でも、コップに水が貯まるように、自分の中に情報が貯まっていって、それがあふれた時に「何かやってみようかな」と自然と思えるものですよね。だから、まずは問題でも、新しいアイディアでも少しでも知ることが大きな意味を持つ。「CHOOSEBASE SHIBUYA」に何気なく買い物に来た人が、そこでいろんな商品に出会って、その背景や会社の思いなどを知り、自分の中のコップに1滴ずつ貯めていく。そして、それがあふれたタイミングで自然とアクションを起こせる。「CHOOSEBASE SHIBUYA」は、そんなきっかけになる場所ではないでしょうか。
「ecuvo,」の商品はこちら
- Guest:
- Arisa Kamada
- Photo:
- ブランド提供
- Text:
- Yurie Nishioka
- Edit:
- Takahiro Sumita